ワールドシリーズ
僕の祖父はジャイアンツファンだった。
小さい頃、祖父母の家に行くとほぼ必ず、野球か相撲か時代劇がテレビで流れていた。だから、僕は別に大の野球好きではないけど、祖父は大好きだったから一緒にジャイアンツを応援してたし、1、2年に1回は球場に赴き、日本ならジャイアンツ、ロスならドジャースかエンジェルス、もしくは5回裏で負けてるチームを応援する。
ロスにはかれこれ15年お世話になっているが、僕がロスに住み始めてから初めてドジャースがワールドシリーズに出ることになり、えせ野球好き、ロス在住、日本人投手が二人も出てる、お祭り便乗派、など様々な記号が、僕の頭の中で「応援したるぜ」という答えを導き出した。
*ワールドシリーズとは、全米プロ野球の決勝戦です。ドジャースの出場は、1988年以来。
ロスは東京や大阪と同じで、僕も含め海外や地方から移住している人が多いので必ずしも皆がドジャースファンではないのだが、それでもワールドシリーズ中は街をあげてドジャースを応援している感じがするくらいの熱気があった。日本で開催された2002年のワールドカップを思い起こして頂ければ、なんとなく雰囲気が想像できると思う。
7回戦中、4回勝った方の勝ちなのだが一進一退を繰り返し、結果を言えば負けてしまったが本当に面白い試合の連続だった。僕の家にはテレビがつながっていないので、ぶらりと地元のスポーツバーに一人で行って、第2回戦を8回の表(ドジャース3ーアストロズ1)から鑑賞したが、その時の興奮と言ったら筆舌に尽くしがたい。
僕がオーダーしたベルギー産のインディアンペールエール(ビールの一種)を手にしたときに、アストロズがホームランを打ち、1点返され、9回にもう1点返され延長戦に突入。すでにホロ酔いの僕はすかさず2杯目をオーダー!そこから更にアストロズに2点取られて絶体絶命かと思ったところで、ドジャースも底力で2点返した時のバーの酔っ払った客の声は、東京にまで届いていたかもしれないくらいデカかった。そして、普段あまり飲まない僕ですら3杯目をオーダーするのが、「バナナは皮を剥いて食べる」くらいの当たり前の行動だったから、スポーツの経済効果は半端じゃない。しかし勢いに乗っていたのは僕の気持ちだけらしく、11回で再び2ランホームランを食らい2点差になってしまい、1点しか返せないまま、ドジャースはホームのドジャースタジアムで負けてしまう。
しかし、僕としては、ここまで面白い展開の試合であれば、勝ち負け自体はさほど問題ではない。「筋書きのないドラマ」と書くと一気に90年代のアナウンサーみたいに聞こえるが、先が読めないことからくる興奮、期待、不安、緊張という感情が複雑に絡み合い、揺さぶられるリアルな経験は、映画では中々味わえないものだからだ。
今回のワールドシリーズでは、人種差別問題も浮上した。ダルビッシュからホームランを打ったアストロズの選手が、ベンチに戻ったときに両目を釣り上げて「チビの中国人」と言い放ったという事件があり、ダルビッシュ自身も、SNSで「チームメイトが自分のためにこの試合に勝つ、と言ってくれた」と呟いたりしていたので、それも加わって、ダルビッシュを更に応援してたし、ドジャースには勝ってほしいと思っていた。しかし、雌雄を決める7回戦でダルビッシュは、ボロボロに打たれてしまい、結局ドジャースは負けてしまった。
ただ、もしこれが映画だったら、どうだろう?
5年後に奇跡的にワールドシリーズでもう一度、再戦することになり、人種差別的言動をしたアストロズの選手とダルビッシュが再び対決する。渾身の一球を投げるがホームランを打たれ、またあの悲劇の再来か、と思われるが、ここ一番というときにダルビッシュが三振を取り、ドジャースが勝ち、犬猿の仲だった二人はお互いを認め合い握手する、なーんて、スポ根映画がアストロズの選手はライアンゴスリング、ダルビッシュはマッケンユーによって演じられるかもしれない。
シリーズが終わった後ですら、本当にそんな映画のような展開になってほしいな、と想像する喜びを与えてくれるほど、今回のワールドシリーズは美しいものでした。
Wシリーズに監督さんがこんなに熱くなっておられたとは!
バーの酔っぱらいさん達の声ではありませんが、その熱気は日本にも届いていましたよ。
私の注目は大阪出身カープから行ったマエケン投手ですがね。
そして監督さんのお話、オチはやっぱり映画がらみ、お後がよろしいようで。